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雨の牙』byバリー・アイスラー

 日米のハーフで、自分をどこかしら根無し草のように感じているジョンは、ヴェトナム時代の数年をアメリカ軍特殊部隊で過ごしたのち、現在は知る人ぞ知るフリーランスの殺し屋として日本にいた。

 政治がらみの今回のターゲットを心臓発作に見せかけて首尾よく抹殺した直後、電車内にくずおれた彼を助け起こそうとした男が、そのポケットを探っていたことがジョンの心にかかっていた。コンピュータセキュリティのプロである知人にその後の動向を探ってもらう一方で、ジョンはふとしたことから美貌のジャズピアニストみどりに心を惹かれるようになる。だがみどりは先のターゲットの娘で、例のポケットを探っていた男が接触を図っていた。

 そんな折、今度はその娘の方を抹殺してくれという依頼を受ける。にわかにあわただしさを増したみどりの身辺に目を光らせているうちに、ジョンはいつしかみどりを護衛するようになる。誰が、何のために、みどりの父を抹殺し、今度はみどりを狙っているのか探っていくうちに、みどりの父が、日本の政界を根底から覆す内部告発のCDを誰かに手渡そうとしていたことを突き止める。政界や警察、外国メディア、果てはCIAまでが、そのCDを手に入れるべく、みどりとジョンの追跡をはじめる。

 殺し屋が主人公の小説につきものの微妙な翳りが、この作品には希薄に感じられる。自然死に見せかけるために銃を使わず、ハイテク機器を駆使するからか、あるいは、たびたび登場するジョンの追憶のおかげで、彼自身が心に傷を負った人間味のある人物として描かれているからか。といってもウエットな重苦しさもなく、かといって非情に徹したドライな雰囲気でもなく、ジョンという人間が、その葛藤を含めて、淡々とあるがままに描かれている。

 作者は日本に造詣が深く、舞台のほとんどが東京だが、そのせいですんなりと心に入ってくるのかもしれない。だが政界と建設業界と警察の癒着、それを裏から操る陰の政党の存在、あるいはヴェトナム戦争時の私利私欲にまみれた裏側、あるいは政界の汚点につけ込もうとするアメリカ政府など、物語のスケールはなかなかに大きい。また柔道をたしなむ主人公の闘いっぷりは、スピード感と迫力にあふれて読みごたえがある。あとくちのきりりと爽やかなハードボイルドといったところか。

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Comments

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Posted by: busana muslim arzeti | Oct 16, 2015 at 10:12 PM

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