タイフーン謀叛海域』by マーク・ジョーゼフ

 久しぶりのハイテク軍事スリラー。やっぱおもしろい~~!とはいっても1992年の作品だから、とてもハイテク(現代の最高のテクノロジー)とは言えないのだけど、一気に読ませてくれた。

 ときは東西冷戦終結後。舞台は祖国解体の予感に混乱するソビエト連邦海軍・北洋艦隊。弱腰の政府を転覆させて自分たちで軍事政権を立てようと企てる北洋艦隊司令官ジェミノフと原潜の艦長マラコフは、原潜に搭載された、大都市を一瞬にして壊滅させる核弾頭ミサイルを盾に政府を脅迫しようとする。クーデターを阻止しようと追撃するのは、原潜の開発責任者で海軍士官の憧憬の的であるゼンコ艦長。

 まず無理やり仮想敵国を設定せず、クーデターに仕上げてあるので物語がシンプルでいい。また原潜の攻防は北の海の分厚い氷の下で繰り広げられるので、外界との通信手段が制限されているのもいい。その海域にたまたま偵察に来ていて追撃劇の傍観者となったアメリカの原潜が、謎の潜水艦として大きな役割を果たしているのもおもしろい。

 なかなか過激な訳者あとがきが実に的を射ているので、少し引用させてもらう。

 「"ポルノでいうなら、これはハードコアだ"という本書に対するオマージュ(?)がある。たしかに情緒もヘッタクレもあったものではない。全編その部分だけでびっしり埋めつくされている。キャラクターの心理描写や内面の掘りさげなどは端から考えていない。余計な衣服はきれいに剥ぎとられ、もうあなた好みのナニのテンコ盛りなのです。ここまで潔く割りきってしまえば、かえって気持ちがよろしい。」

 というわけです(^^;)。読後感はなかなか!

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『漂う提督』by アガサ・クリスティー、ドロシイ・L・セイヤーズ、G・K・チェスタートン、F・W・クロフツ、アントニイ・バークリイ、他

 本書はそうそうたる推理作家が書きつないだ、長篇リレー・ミステリである。翻訳は中村保男氏だが、あるところでたまたま「作家によって訳の文体を変えられたのですね」「いえ、原文に沿っていったらそうなったんです」という風なコメントを読んで、興味をかきたてられたわけだ。

 ふつうの物語ではなく、「本格推理小説」を総勢13名で書きつないでいくとどうなるのか? 内容に関して何の申し合わせもなくて、果たして事件は解決するのだろうか? その点にも興味を引かれた。

 執筆にあたっては、ふたつのルールが取り決められている。まず、前の担当者が書いた内容は、細部に至るまで尊重すること。うっちゃり?はなしというわけだ。もうひとつは、どれだけ話をふくらませてもいいが、必ず自分なりの事件の解決法を見つけ出しておくこと。各作家の解決法は文末に載せられている。

 そして読後感は……。うーむ、おみごと!というほかない。

 最初の方はややまだるっこしい感は否めない。作品の方向が定まっていないのだから、作者にも方向性が見えていないのだから、読者がうろうろするのも当然かもしれない。中盤は、「物語の展開」という骨格がふつうの作品より見えやすいような気がした。うまく言えないのだが、場面転換・新たな登場人物・新たな展開、といった流れが、わりとくっきりと浮き上がって見えた。

 そして最終章、これは圧巻だった。ほぉ~~あれだけふくらんだ話をこうまとめてくるか!と、思わず深く納得してしまった。あとがきに内容に関する矛盾点が若干挙げられているし、たしかにちょとごり押し?の部分や散開?してしまったような箇所もあるが、それでもやはり、おみごと!というしかない。興味の尽きない一冊だった。

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強行着陸』by ウイリアム・ハリントン

 トッププログラマー、ダリウスは、コンピュータソフトの開発に関してはまさに天才だったが、ビジネスの才覚には乏しかった。自社の経営権をMBAの肩書きを持つエリートたちに奪われ、名ばかりの社長職に追いやられたダリウスは、悪質なウイルスを自社ソフトに紛れ込ませ、全米の航空機予約システムに侵入させて、感謝祭前日の空港を未曾有の大混乱に陥れた。

 エリートたちの息の根をとめてやろうと復讐に燃えるダリウスのもとに、ひそかな打診があった。それは、南米発の大型機をひそかに米国に着陸させるために、航空管制塔のコンピュータを誤作動させるようなウイルスの制作は可能かというものだった。そうやって何十トンというコカインを密輸しようというのだ。南米の巨大麻薬組織と天才プログラマー対、連邦航空局とセキュリティーコンサルタントの息詰まるような戦いがはじまった。

 1992刊行だからやや古だけど、奥付を見ると第11版まで出ている。ハイテク技術に関してはさすがに最新とは言えないだろうが、まだまだ十分説得力がある。コンピュータの専門用語も出てくるがストーリーを追ううえで苦労するほどのことはなく、管制塔のシステムや領空侵犯の緊張感など、なかなか読みごたえがあった。

 

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シスターフッド』byファーン・マイケルズ

邦訳はまだこれしか出ていないけど、底抜けに明るい復讐物語、シリーズ第一弾。

 幼いころに両親を亡くしたニキ。だが、施設に入れられる前に大富豪のマイラが救いの手を差し伸べてくれ、以来マイラの娘のバーバラとともに、姉妹のように育てられてきた。弁護士として活躍する一方で、敏腕検事のジャックとのゴールインも間近なそんなある日、バーバラが交通事故で帰らぬ人となる。だが加害者は、外交官特権に守られていて、法律では手の出しようがなった。

 マイラは絶望のあまり腑抜けのような日々を送っていたが、テレビ中継されたある事件の顛末に、大きなショックを受ける。それは、法律の間隙を縫って無罪放免となった殺人犯が、釈放されるその日に、被害者の母親に射殺されたというものだった。目には目を――マイラは自分の莫大な財産と、イギリス諜報部員出身の忠実な執事の専門知識に目に物言わせて、法に泣かされた女たちのための秘密結社〈シスターフッド〉を立ち上げようと決意する。

 十分な資産(マイラ)、情報収集やハイテクのプロ(執事兼マイラの恋人のチャールズ)、法律の専門家(ニキ)、それぞれに個性的で愛すべきキャラクターの、法の被害者となった女性たち〈シスターフッドのメンバー〉、人生の表舞台では一見非の打ち所のない社会生活を営みながら、その実、人間性は腐っている加害者の男たち、と、勧善懲悪の鉄槌を下すうえで欠かせない要素はすべてそろっている。もちろん何もかもが思いどおりに進むわけはなく、仲違いをしたり、落とし穴や手違いがあったり、ジャックのずば抜けて鋭い検事の勘に脅かされたりしながらも、〈シスターフッド〉たちは次第に心をひとつにして、目標に向かって邁進する。

 彼女たちのやっていることはたしかに法に抵触する。法を遵守する誓いを立てたニキが、恋人のジャックを敵に回して苦悩するのは当然だろう。だが、法律が百パーセント機能しているわけではないという事実、得てして弱者は虐げられ、泣き寝入りするしかないという現実の前に、本作ではニキはジャックと袂を分かつ。2人の関係が今後どうなるかも、気になるところだ。夢物語とはいえ、読んでいて痛快このうえなく、続刊が楽しみなシリーズだ。

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崖の家』byトム・サヴェージ

 カリブ海のセント・トマス島には何不自由なく暮らす人々が多く、崖の上の屋敷に住むケイも、弁護士だった夫が事故死したショックから立ち直ると、ヨットマンのアダムと再婚して優雅に生活していた。だが、13歳になる娘のリザのオーペアとして、島に滞在していた若く美しいダイアナを家に招いたときから、のちのち新聞の一面を大々的に飾ることになる事件への、カウントダウンが始まっていた。

 冒頭、まず読者は、20年前に起きたショッキングな事件を突きつけられる。深いトラウマを負っているはずの人物は、果たして本書のどこにどのように登場するのか? またそのトラウマがその人物にどんな影響を及ぼし、それが引き金になってどういう事件が起きていくのか? などなど、初っぱなから色々と考えさせられてしまう導入だ。

 また、場面によって視点人物を変え、その時々においてその人物の内面を掘り下げていく手法と、同時に、意図的に個人名を出さず、「彼は――」「彼女は――」という形で、視点人物をぼかす手法を混在させることで、サスペンスはいっそうの盛り上がりを見せる。

 その一方で、作者は「切り札」を出し惜しみせず、わりと早いうちから読者に少しずつ手の内を見せてくれるから、じっくりと話の展開を追うこともできる。このあたりの兼ね合いは、実に絶妙ではないかと思う。ロバート・B・パーカー、ローレンス・ブロック、ジョナサン・ケラーマン、ウェストレイクなどが本書を絶賛したというのも、深く頷ける。

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山をも動かす』byアリサ・クレイグ

 シャーロット・マクラウドの別名義、ディタニー・ヘンビット・シリーズ第1弾。

 舞台はカナダ東部の小さな町で、この町の住人はみな、揺りかごにいるときから弓矢をつがえているほどアーチェリーが得意。その町の古い大きな家で、ひとりで秘書代行サービスを営んでいるディタニーは、大切な顧客である小説家の「あいや」「うぬ」といった大仰な言葉を清書するのに疲れ、矢筒を背負って近くの「魔の山」まで散歩に出かけた。

 すると、珍種植物が自生する町の共有地で、掘削機を使おうとしている男がいるではないか! 浸透度テストで排水具合を調べるという男と押し問答をしていると、空を切って飛んできた矢がぶっすりと木の幹に突き立った。さらに、そのテストを言いつけたはずの水道課の課長が、矢で地面に串刺しにされていた。この平和な町に何が起ころうとしているのか?

 町中でアーチェリーが盛んという設定からもわかるように、とにかくあれもこれもおかしくて、どこでもここでも笑わせてくれる。古きよき町では、行事の際にも事件の際にも独特の団結心が発揮されて、若くて素直で活きのいいディタニー(と、彼女が住んでいる大きな家)は、町の婦人会でも引っ張りだこなのだ。ディタニーがあれやこれやで八面六臂の活躍をする一方で、事件もなかなか説得力のある解決を見る。軽やかなロマンスまで絡んで、なかなか楽しめる1冊。

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今宵は浮かれて』byアリサ・クレイグ

シャーロット・マクラウドの別名義、マドック&ジェネット・シリーズ第2弾。

 カナダ騎馬警官隊のマドック・リース警部はふとしたきっかけから、前作『殺人を一パイント』で知り合ったジェネットと、クリスマス休暇をシャルール湾に面したコンドリック一族の屋敷で過ごすことになった。電気も通じていない人里離れた屋敷では、英国の伝統を守り続ける当主スクワイアとその義母、スクワイアの4人の息子・娘たち夫婦、彼らのハイティーンの子どもたちが集い、型破りなクリスマスの宴が陽気に始まろうとしていた。

 だが、「入れ歯が見つからない」という理由で姿を見せなかった高齢の義母が、ベッドで冷たくなっているところを発見される。その翌日には、義母の霊験豊かな妹が、吹雪の中で凍死死体で見つかる。「政府関係の仕事」と身分を偽っていたマドックは、ジェネットをアシスタントに捜査を開始する。

 ミステリ部分はもちろんだが、それ以外にもマドックとジェネットの清らかな恋愛模様、屋敷に集う面々の個性豊かなやり取り、コンドリック一族のユニークなクリスマス行事、オーロラのごとく夜空に出現する謎の幽霊船などなど、あちこちにお楽しみが散りぱめられた1冊だ。実は謎解きに至る過程は、若干強引な気がしなくもないのだが、それは野暮な突っ込みというものだろう。

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イージー・マネー』byジェニー・サイラー

 舞台はフロリダ、主人公アリーの生業は「運び屋」だ。それも、ヴェトナム帰りの父や父の相棒(ともにSEAL出身)がその仕事に携わるのを、幼いときから目の当たりにしてきた筋金入りのプロだ。ウエイトレスをしながら大学に通ったこともあったが、運び屋の方がイージー・マネー{楽な稼ぎ}になると気づくと、あっさりと鞍替えした。

 だが今回の仕事は、どこか勝手がちがった。一抹の不安を覚えながらシアトルで待機しているときに、父の相棒が、父の死を知らせてきた。おまけに受け渡しの場所では、取引の相手とおぼしき男がトイレで殺されてしまった。だが彼は殺される直前、アリーのジーンズのポケットにこっそりと1枚のディスクをすべり込ませていた。身の危険を感じたアリーは、もと運び屋のマークのところに逃げ込んでディスクの内容を確認するが、その直後、今度はマークが殺される。ヴェトナム時代の極秘任務に関わるディスクをめぐって、アリーと姿なき敵の攻防が始まる。

 女性が主人公にしてはかなり骨太で、ハード・ボイルドとしても十分に読みごたえがある。なにせアリーは銃の達人で、決死の闘いに臨む際には、足首用ホルスターにロング・サイレンサーつきベレッタを、Tシャツの下の肩用ホルスターには(たぶんヘッケラー・コッホの)45口径を、ジーンズの尻ポケットには愛用のワルサー(ワルサー以外は敵からの分捕り品)を、淡々とすべり込ませて戦闘に備える女性なのだから。

 わけもわからないまま命を狙われながら、判断力、気力、体力を総動員して一連の出来事の背景を探っていくアリーには、悲壮感のかけらもない。また、マスタングを駆って大陸を突っ切るアリーの先々で顔を合わす脇役たちは、実に現実的で、ゆるぎない存在感がある。ときおり差しはさまれる父親にまつわる回想も、感傷をぎりぎりまで削ぎ落とした、客観的な分析に近いものを感じさせる。それなのに、作品の底には切ないような感情が流れている。

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不安な関係』byジェイン・A・クレンツ

 うーん、「NYタイムズ・ベストセラーリスト、32週連続ランクインの実績」という帯の文句に引かれて買ったのだけど、いちおうはミステリ仕立てなのだけど、ちょ~っと陳腐と言わせてもらおう(^^;)。

 ハーレ並みのマッチョ=支配型・管理型・強引型でありながら(この手の男は、もうあまり受けないような気がスル)、意志の力で理解を示そうとするトール、奔放で強気というより支離滅裂という印象のアビー(ああ、だめよだめよと言いながら、肉体は心を裏切って……という部分は分かるのだけど、言動全般に説得力がないというか、どうしてそういう言動になるのか少々理解に苦しんダ)。

 ロマンスとしては楽しめないこともないけど、わたしとしては○とは言えません~。

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いつか還るときは』byシャーリン・マクラム

 物語は、戦没者記念日の朝に、ヴェトナム戦争で命を落とした兄の墓所を訪れる、保安官スペンサーの回想から始まる。さりげなく、だが丁寧につづられたこの場面のおかげで、スペンサーの憂いと、彼を取り巻く今も昔もほとんど変わり映えのない、平和でけだるい田舎町の様子が伝わってくる。

 その朝一番の仕事は、ともすれば母親と同じ口調でスペンサーをあしらおうとする、年配の夫人からの苦情だった。苦情のもとは、最近町の豪邸を買い取った「かつての」有名フォーク歌手、ペギー・マリヤンの犬だ。スペンサーは彼女の邸まで足を運んだ際に、ペギーが思いがけず自然体の女性であることを知って、そこはかとない好意を抱くようになる。

 だが数日後、ペギーのもとに脅迫めいた不気味な手紙が届いた。さらにペギーの犬が無惨な殺され方をしたり、牧場では羊が惨殺されたり、ごくふつうの女子高生が惨殺死体で発見されたりと、不穏な出来事が続く。それら一連の事件の影には、ぼんやりと、ヴェトナムという共通項が透けて見えた。

 事件そのものは、どちらかというとシンプルだ。が、それと並行して進むスペンサーのほのかな恋愛や、彼の学年で二十年ぶりに同窓会が開かれるという設定、そのために三々五々と町にもどってくる同窓生の挿話、あるいはこの田舎町に住むヴェトナム帰還兵の過去の重苦しい傷跡などが、物語に複雑な陰影をつけている。しっかりと書き込まれていながら、ゆらゆらとたゆたうようなあてどなさがあるのは、スペンサーその人の憂いのせいかもしれない。マガヴィティ賞受賞。

 

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